高市政権の財政政策に集まる注目
債券市場で超長期ゾーンを中心に「日本国債売り」の動きが強まっている。日本の財政悪化懸念を意識した円売り・日本国債売りの構図が浮き彫りになってきた。金利が上昇するにつれ、通貨も下落するという悪いスパイラル的な円安であり、1ドル155円台に乗せてきた。今後は、160円に向けて売り圧力が強まり、当局の介入姿勢も試すようになるかもしれない。
債券市場では、高市政権が近くとりまとめる経済対策について、財政出動を拡大するとの予想から、財政悪化への懸念が強まり、日本国債売りの動きに繋がっている。長期金利の指標となる新発10年日本国債利回りは、19日、前日比1.5bp高い1.76%と2008年以来、17年超ぶりの高水準を連日で更新した。新発20年日本国債利回りは1bp高い2.795%と1999年以来の高水準を付けた。きょう実施されるの新発20年国債入札に対する警戒感も強い。金利そのものは、高い水準にあるが、財政懸念が根強く、さらなる日本国債売りを懸念して、積極的な買いを手控える傾向にある。
為替市場でも「日本売り」が加速するとの懸念がくすぶっている。日本円金利の上昇は、普通に材料として解釈すれば、金利高から通貨は高くなるはずだが、日本円は1ドル=155円台半ばと今年2月以来の安値圏で取引されている。
債券市場で財政拡大懸念がじりじり高まっている動きが続くと、株式にもマイナスの影響が波及してくる可能性が高まる。現在のところ、株式市場は、日本売りと見られる反応はないが、今週に入って、リスクに敏感になり始めていることは気がかりである。
2022年にイギリスで起きた「トラス・ショック」をご記憶の方はいらっしゃるだろう。2022年9月、首班指名を勝ち取ったトラス首相は、大規模な減税策を柱とする「ミニ・バジェット」と呼ばれる財政政策を発表した。それには、所得税の基本税率を引き下げる時期を前倒しし、高額所得者に適用される45%の最高税率を撤廃、さらに法人税率の引き上げを凍結するなど、大胆で大幅な減税が含まれていた。減税の規模は 「過去50年で最大」 で、その総額は約450億ポンドに達した。しかも、これらの減税策は財源の大半を国債発行によって賄う「財源なき減税」で、中長期的な財政悪化リスクを強く意識させるものだった。
しかし、市場が驚くような積極財政政策は、「トラスショック」とも呼ばれる金融危機のトリガーとなった。この混乱が原因となり、トラス首相は、信任を失う。そして就任からわずか2カ月足らずで辞任に追い込まれた。
高市政権の補正予算も、下手をすればトラスショックのような債券市場の反乱が起きる可能性を完全には否定できない。注意深く見守りたい。